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千葉地方裁判所 昭和45年(ワ)109号 判決

原告

佐藤寿江

ほか二名

被告

小幡勉

主文

原告らの請求を棄却する。

訴訟費用は原告らの負担とする。

事実

第一、申立て

(原告ら)

一、被告は、原告佐藤寿江に対し一、七三〇、〇〇〇円、同佐藤章江に対し一、九七〇、〇〇〇円、同佐藤カスに対し五〇〇、〇〇〇円および右各金員に対する昭和四五年四月一日から支払いずみまで年五分の割合による金員を支払え。

二、訴訟費用は被告の負担とする。

三、仮執行の宣言。

(被告)

主文同旨。

第二、請求の原因

一、(事故の発生)

(イ)  発生時 昭和四二年三月一四日午後一〇時三〇分頃

(ロ)  発生地 習志野市谷津町一丁目一四四番地先国道一四号線上。

(ハ)  事故車 被告所有の自家用四輪乗用車トヨペツトクラウン五八年千五ぬ六九五(以下被告車という)

(ニ)  運転者 訴外大野秀男(以下訴外人につきすべて訴外を省く)

(ホ)  被害者 佐藤栄一(即死)

(ヘ)  事故の態様 大野秀男は酪酊の上右発生地を東京方面から千葉方面に向かつて進行中、前方を自転車に乗つて同方向に進行中の佐藤栄一に被告車を追突させ即死させた。

二、(帰責事由)

1  被告は、被告車を所有していた。

2  よつて被告は自動車損害賠償保障法三条により本件事故によつて原告らの蒙つた後記損害を賠償すべき義務がある。

三、(損害)

1  原告佐藤寿江は佐藤栄一の妻、同佐藤章江は佐藤栄一の長女、同佐藤カスは佐藤栄一の母である。

2  佐藤栄一の逸失利益

イ 佐藤栄一は、昭和一一年九月九日生で事故当時三一歳であつたから厚生省第一二回生命表によると、以後三九年生きることができ、三五年間稼働可能であつた。

ロ 同人は、船橋市に技労職員として勤め、同市の一般職の職員の給与等に関する条例の技労職員基本給表の三等級一二号給を受けていた。同人は昭和四一年四月一日に昇級し、その後毎年同月同日昇給することを見込んで、同人の同四二年四月から同七一年八月までの得べかりし給料額は一〇、二六五、五〇一円、退職金は二、一八八、四〇四円、退職年金は一、六五八、八二九円となる。

計 一四、一一二、七三四円。

ハ 控除

(一) 受領ずみ退職金 一六六、八〇〇円

(二) 共済一時金 一一一、二六九円

(三) 受領ずみ保険金 一、五〇〇、〇〇〇円

計 一、七七八、〇六九円

ニ 右ロからハを控除すると、佐藤栄一の逸失利益は一二、三三四、六六五円となる。

3  相続

佐藤栄一の死亡により同人の右逸失利益賠償請求権のうち原告佐藤寿江は三分の一の四、一一一、五五五円、同佐藤章江は三分の二の八、二二三、一一〇円をそれぞれ相続によつて取得した。

4  佐藤栄一の慰藉料請求権六〇〇、〇〇〇円。

そのうち、原告佐藤寿江が二〇〇、〇〇〇円、同佐藤章江が四〇〇、〇〇〇円をそれぞれ相続によつて取得した。

5  原告らの慰藉料

原告 佐藤寿江 一、〇〇〇、〇〇〇円

同 佐藤章江 五〇〇、〇〇〇円

同 佐藤カス 五〇〇、〇〇〇円

四、よつて被告に対し、原告佐藤寿江は右三の3ないし5の損害金合計五、三一一、五五五円のうち一、七三〇、〇〇〇円、同佐藤章江は右同様九、一二三、一一〇円のうち一、九七〇、〇〇〇円、同佐藤カスは右三の5の損害金五〇〇、〇〇〇円および右各金員に対する事故の後である本件訴状送達の翌日から支払いずみまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払いを求める。

第三、答弁

一、請求原因一のうち(イ)ないし(ホ)の事実を認め、(ヘ)は不知。

二、同二の1の事実を認め、同二の2の主張を争う。

三、同三の各事実を争う。

第四、抗弁

被告は、事故の約二週間前から約一箇月間被告車を有限会社平野興業に無償で貸与していて、その運行の支配も、運行利益も有していなかつた。従つて被告には原告ら主張の如き責任がない。

第五、抗弁に対する原告らの認否

抗弁事実を争う。

第六、証拠〔略〕

理由

一、(事故の発生と帰責事由)請求原因一のうち(イ)ないし(ホ)の事実および同二の1の事実は、当事者間に争いがない。

二、(抗弁)〔証拠略〕によると、次の事実が認められ、反証はない。

1  被告は、自動車の修理、販売等を目的とする有限会社習志野興業(以下習志野興業という)の代表者である。

2  習志野興業は、同四二年二月下旬頃平野善久からナンバーのない中古品のクラウンライトバン一台の全部のオーバーホール、板金塗装等の修理、車検をとるための整備、車検事務手続代行の依頼を受け、これを約一箇月の予定で請け負つたが、その際同人から代車の貸与を求められ、被告は、代車貸与の約束をする意思もそのような慣行もなく、また貸与する車両もない旨を告げて、これを拒絶した。

3  平野善久は、代車を借りることができないことを納得して、一且帰つたが、数日後再び習志野興業を訪れて、被告がたまたま習志野興業に置いてあつた被告車に目をつけ、従業員からこれが被告個人の車であることを聞いて、被告に対し、平野善久の営んでいる土木建築の仕事の都合上働く人達を乗せて行くためにどうしても必要だからと、貸与方を懇願した。

4  被告は、被告車を習志野興業のために使用したことはないが、家庭に病弱な老人がおり、その送迎や店が住居から遠いので買物の往復や、日曜日のレジヤーのために被告車を使用していたので貸与すると不便であるし、習志野興業では一度も修理車の代車を貸与したことがなかつたけれども、平野善久の頼みをことわり切れず、無理矢理持つて行かれたような形で貸してしまつた。勿論貸料の約束もなく、無償であつた。そして右使用貸借の期間もはつきりときめることなく平野善久が被告に対し、一箇月位かかるという前記ライトバンの修理が終つたら届ける旨約したに過ぎなかつた。

5  その後約二週間経つて本件事故が発生したが、被告は事故後一、二日経つて警察からこういうナンバーの車は被告のものかという連絡を受けて事故の発生を知つた。

6  貸与期間中平野善久は、大野秀男に被告車を運転させ、東陽町の宿舎から夢の島の土木建築現場まで人夫を運搬往復させるため使用していて、被告は、被告車に対する運行支配を全く有しておらず、その運行利益も全く享受していなかつた。

三、そうだとすると、抗弁は理由があり、本訴請求はその理由がないから、これを棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 木村輝武)

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